嫌われ者に恋をしました*エピソードplus

 体重もそうだけど、お腹も大きくなってきた。
 時々赤ちゃんの動きを感じる。

 赤ちゃんの動きを感じるとつい嬉しくなって、じっと目を閉じてお腹に手を当てる。

 でも、動きを感じたくて、じっと動きを止めると動いてくれない。
 その割に、家事をして忙しく動いている時に限って動いたりする。

「きっと雪菜に連動してるんだよ。じっとしてれば静かだし、動いてれば動くんだろ?」

「……そうかもしれませんね」

 私が動いている時以外にも、隼人さんがお腹に触るとよく動く。

 そうだよね。
 パパのこと、大好きなんだよね。

 今もソファーに座る私のお腹に隼人さんが柔らかく手を当てたら、グルッと動くのを感じた。

 床に膝をついた隼人さんは、当たり前のように私の腰に手を回して、抱き締めるようにしながらお腹に耳を寄せる。

 確かに。
 私と赤ちゃんは連動しているのかもしれない。

 だって、目を閉じてお腹に耳を当てる隼人さんの穏やかな表情を見ていたら、私も嬉しくて幸せで、心が踊るもの。

 スーツを纏った仕事中のあなたはきっと、ぶれない立ち姿で、眼鏡に長い指をスッと添えたら、氷みたいな視線を流しているんでしょう?

 思わず笑顔になる。
 今のあなたの姿は、私だけの宝物。
 写真みたいに心に焼きつけておきたい。

「何か聞こえますか?」

「んー……、あっ!動いたっ!」

 無邪気に笑う隼人さん。
 私もつられて笑う。

 私だけが知っている隼人さんの姿。
 私だけに見せてくれている姿。

 こんな日だまりみたいな時間、たまらない幸せ、お腹の赤ちゃんだって、はりきって動くわけです。
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