嫌われ者に恋をしました*エピソードplus

 なんてお礼を言えば良いのかな。
 お土産も考えないと。
 でも、お土産って常識的にどんな物が喜ばれるのか、正直よくわからない……。

 そんなことを考えて少しうつむいた私を、隼人さんは後ろから包むように抱き締めた。

「まだ、実家に行くのは緊張する?」

 うつむいたから心配してくれた?
 そういうわけではなかったのだけど。
 私のわずかな変化でも、隼人さんはいつも気がついてくれる。

 本当に優しい人。

 隼人さんの優しさと、耳に頬をすり寄せられた感触で、胸が疼くように痺れた。
 出会った頃みたいな甘い痺れ。

 一瞬の感覚を大事にしたくて目を閉じた。

「いえ、もうそんなことはありません」

「そう?」

 前みたいな緊張感は本当にない。
 慣れた、というのもあるけれど。
 でもそれだけじゃない、と思う。

「……私、ますます図太くなっているような気がするんです」

 耳元にフッと笑う息がかかった。

「だから、それはいいことなんだよ」

 そう言いながら、隼人さんは抱き締める力を強めて、ゴロゴロとじゃれつくように私の髪に頬ずりをした。

 隼人さんとは前にも話したけれど、図太くなるのはいいことだ、と私も思う。

 でも、それは繊細な若さを失っていくようで、変化を怖れる気持ちもあったりする。

「……図太いなんて、いいんでしょうか」

「いいんだよ!まあ、雪菜の言う図太いは凡人の普通レベルだよ。雪菜は遠慮の塊みたいなとこあるから」

「……」

 遠慮?
 そうかな?
 私、遠慮しているのかな?
 ……そんな高尚なものとはちょっと違う気もする。

「私の場合、遠慮、ではなく、悪く思われたくないだけの臆病なエゴ……ではないでしょうか」

 耳元で明るくハハッと笑う声がした。

「それも遠慮って言うんじゃない?」

「はあ……」

 そうなの?

「雪菜は遠慮することで自分を守ってきたんだと思うし、雪菜なりに気を使っているんだと思うけど、遠慮って必ずしも良いとは思わないよ。近しい関係なのに遠慮ばっかりされたら、周りだって気を使うだろ?だから、図太い方がいいんだよ」

 遠慮したら周りが気を使う?
 そう……だったの?

 でも、そうだったのかもしれない。
 私が気がついていなかっただけで。
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