嫌われ者に恋をしました*エピソードplus

「雪菜はさ、考え過ぎなんじゃない?真面目だからねえ」

 だって大事なことだもん。真面目に考えちゃうよ。

「なんて言うのかなあ、アタシはあんまり深く考えないタイプだから親父から離れちゃったらもうそんなに気にしないけど、兄貴がすっごいこだわっててさ」

「え?花ちゃん、お兄さんがいるの?」

「うん。兄貴はね、『俺は親父のようにはならない』ってのが口癖でさ、酒もたばこもやらないんだ。でもね、それを見てると、なんか違うんじゃない?って思っちゃうの」

「違う?何が?」

「兄貴はさ、結局、酒もたばこもやらなくて暴力も振るわないかもしれないけど、親父にこだわってる時点でなんか逃れられてないって言うか、同じなんじゃね?って思うんだよ」

「うーん……」

 そのニュアンス、なんかすごくわかるような気がする。

 花ちゃんはすごく簡単なことみたいに言ったけれど、それってものすごく深い言葉なんじゃない?同じような人生を歩んでも、同じ人生は歩まないと決めた人生を歩んでも、結局は同じってことだよね?

 それって、親は親、自分は自分って思って違う人生を歩もうとしても、こだわっている時点で結局自分の人生を生きられていないってことなのかもしれない。

 自分の過去を異物として排除したい。そういう排除したい過去を認められない自分がいて、でもそうすることで、結局自分自身を否定してしまっているってことなのかもしれない。

 私はどうだろう。

 過去があるからこそ今の自分があって、今の私だからこそ、隼人さんに出会えた。

 それでも恐れている。私は自分の一部を今でも否定している。

「自分を全て認めるなんて、簡単にはできないよ」

「えー?へへっ、そんなに難しく考えなくていいんじゃない?まあ、アタシは阿久津がアタシならなんだっていいって言ってくれたから、それに支えられてるところはあるけどね」

 なるほどね。愛されてますね?花ちゃん。

 私も早く隼人さんに会いたくなってきた。隼人さんといろいろお話ししたい。

「私も主人と話してみようかな」

「そーだよ!話してみな!それが一番だと思うよ」

 花ちゃんは純粋に私の背中を押してくれた。こうして同じ目線で話ができる人がいるなんて思わなかった。

 私、自分が叩かれてきたことを誰かにわかってもらえるなんて、考えたことなかった。

 同じような過去を持っていること。同じような思いで育ったこと。叩かれる感覚を共有できること。とても不思議な感覚。

 ドイツでできたこのちょっと変わった友人は、いろんな意味でとても深いつながりの大切な友人になった。
< 34 / 134 >

この作品をシェア

pagetop