嫌われ者に恋をしました*エピソードplus

 隼人さんはまばたきをしながらテーブルをじっと見つめた。

「でも、煙草と叩くことはもちろん違う。それに、最初はただ単にストレスを解消するために叩きたくなるのかなって思ってたんだ。でも、雪菜の場合はちょっと違うような気がする」

 小さくため息をついて、隼人さんは顔をあげると話を続けた。

「心の傷って目に見えないだろ?他人にも見えないし自分にも見えない。見えないこと自体がストレスになるんだと思う。でも、叩くことで心の傷を実際に感じる痛みに変換して自分にわかる形にすることで、確認していたんじゃないのかな。自分が傷ついていることを実感として確認したかったんじゃないのかな」

「……」

 自分の心の傷を実感として確認する?そんなこと、考えたこともなかった。

 っていうか隼人さん、そんなにいろいろと私のことを考えてくれていたの?……そのこと自体が嬉しくて、胸が痛くなる。

「俺もまだいまいちピンと来てないんだけど、モヤモヤしたまま心に留めておくより、表に出して確認した方が安心するって言うのか。表に出して確認することでストレスを解消しているような気がしたんだ」

 そうだったのかな?表に出す?でも、言われてみたらそういう側面はあったかもしれない。

 叩きたくなる時は衝動的で、深く考えていないけれど、心が傷付いた時、叩いて痛みを感じることで、もしかしたら「私の心はこんなに痛みを感じているの!」って自分に思い知らせたかったのかもしれない。

 でも、それって……。今、大事なことに気が付いた気がする。

「まあ、つまりさ、雪菜が自分を叩くのは心の傷を確認するためで、お母さんが雪菜を叩くのはイライラを解消するため。叩く理由が全然違うと思う。だから、雪菜とお母さんは決定的に違うんだよ」

 口元に手を当ててじっと考える。

 なるほど、そっか。隼人さんは、私とお母さんが違うってことを証明したかったんだ。

 でも、お母さんもただ単にイライラを解消するためだけじゃなくて、私と同じ部分もあったのかもしれない。

 私もお母さんも、心の傷の痛みをわかってほしかった。でも、私は自分に知らせたい。お母さんは人にわかってほしい。

 方向が違う。私の場合は叩く対象が自分じゃないと意味がない。だから、私は人に暴力は振るわないだろうってこと?

 そこは今一つ納得できないけど、隼人さんのおかげで少し考えがまとまってきた。

 それに一つわかったことがある。
< 38 / 134 >

この作品をシェア

pagetop