嫌われ者に恋をしました*エピソードplus
私が小さくため息をついて沈黙したら、隼人さんは微笑んで、机の上に置いた私の手を両手で包み込んだ。
「雪菜、子どものことは無理に急いで考えなくてもいいんだ。雪菜が欲しいって思えたらでいい。俺もまだ二人でいたいって言っただろ?だからゆっくり考えよう?」
隼人さんは本当に優しい人。本当は子どもが欲しいのかもしれないのに、自分の気持ちより私を優先してくれる。そんな隼人さんに私は甘えてばかり。
本当に申し訳ない気持ちになって、勝手に落ち込む。
「ごめんなさい……」
「どうして謝るの?」
「私の問題なのに、私のわがままに隼人さんを巻き込んでしまって、私に合わせてもらってるから」
隼人さんは私の両手を包む手にぎゅっと力を入れた。
「雪菜だけの問題じゃないよ。これは二人の問題。二人で話して二人で考えよう?特に子どものことは一人で決めることじゃないと思う」
そんな風に真剣に考えてくれるなんて、こんな風に私を受け止めてくれるなんて。嬉しくて胸が痛くなる。
私がじっと見つめてうなずくと、隼人さんは右手でそっと私の頬に触れた。
「もともと俺たちは違う人間だろ?どうしたって歩く早さは違う。いつもピッタリ同じ早さでなんか歩けない。俺が雪菜に合わせることもあれば、雪菜に合わせてもらうこともある。違う人間が一緒に生きているんだから、そりゃあ、そういうこともあるよ。俺はそれも含めて雪菜とずっと一緒に生きていきたいと思った。だから結婚して、今一緒にいるんだろ?」
「……」
隼人さんの言葉が胸の奥に沁みて目が熱くなった。この人はいつも私のことを考えて、私の心に寄り添ってくれる。
言葉が出てこないまま涙目になると、隼人さんは少し照れくさそうな顔で微笑んだ。
「俺たち、夫婦なんだからさ」
「……はい」
その言葉に私もはにかんで微笑んだ。
夫婦っていう言葉の響きはまだちょっと照れくさいけど。私たちは夫婦なんだよね?こうやっていろんなことを話して、いろんなことを乗り越えていけるよね?
私の弱さも全て受け止めてくれる隼人さんに感謝してる。もしも隼人さんが弱っていたら、私は必ずそばにいる。でも今回は私に少し時間をください。
私に誠実に向き合ってくれる隼人さんのためにも、自分の気持ちに嘘はつかないで、私が一体何に躊躇しているのか、もう少し私自身と向き合ってみたいの。