嫌われ者に恋をしました*エピソードplus
「レベッカさん、日本語わかるんですか?」
「わからないわよ」
「じゃあ、どうして花ちゃんの言った日本語がわかったんですか?」
「なんとなくね」
うーん。やっぱり、なんとなく、なんだ。
「花ちゃん、さっきのレベッカさんのドイツ語わかったの?」
「なんとなくねー。家族と愛情って単語はわかったから、愛する家族のためにきちんと骨抜きなさいって言ってるんだろうなって思ったけど、あたってる?」
「うん、正解!」
やっぱり二人ともなんとなくニュアンスで理解している。
「レベッカさん、正確に言葉を理解しなくても相手の気持ちがわかるんですか?」
「雪菜」
レベッカさんが微笑みかけた。
「雪菜は真面目な子ね。言葉で理解することも大事だけれど、雪菜も花も、きっとなんとなくこういう子だって私はわかってる。だからね、なにも正確に全てを理解しようとしなくてもいいのよ。そのままの雪菜をなんとなくわかってる。なんとなくこういう人。だからあなたはそのままでいいの。正確になんて考えないで、なんとなくそのまま、ここにいればいいのよ」
その言葉には驚いた。そして、涙がわいた。なんとなくそのままここにいればいい、なんて。
隼人さんと出会って初めて知った感覚。私は私のままでいい感覚。
細かく私という人間を正確に理解してもらわなくても、相手をこと細かく把握しなくても、なんとなくわかっているということ。それはもしかしたら、最も深い理解なのかもしれない。理解と言うか、存在を認められていると言うべきだろうか。
なんとなく存在を認められること。気負わず普通に生きていてもいい。そのことは深く胸に刺さった。
私が人と関わらなかったのは、私の存在はあってはならない存在で、認められない存在だと思っていたからだ。実際に私はお母さんに自分の存在を認めてもらえなかった。だから、人との関わりの中でこれ以上自分の存在を否定されることが怖くて、自分が生きていることをできるだけ消して生きてきたんだと思う。
でも、隼人さんに出会って私の存在を受け入れられて、私は当たり前に存在していてもいいという感覚を知った。
そして今、隼人さん以外の人たち、レベッカさんや花ちゃん、ミノリちゃんにも私が普通に存在していることを受け入れられている。そのことを私自身、恐れずに受け入れられている。
それを実感して、とても嬉しくて、瞳の中で膨らんだ涙はあっという間にこぼれて落ちた。