嫌われ者に恋をしました*エピソードplus

 作ったレープクーヘンの入った紙袋を手に、花ちゃんと夕暮れの帰り道を急ぐ。

 ドイツの冬はとてつもなく寒い。なにしろ緯度は北海道より上。冷たい空気を吸いたくないからあんまり息はしたくないし、帽子をかぶらないと耳がちぎれそうに痛い。

 ふと、元気に遊ぶ子どもたちの声が聞こえてきた。

 顔を上げると、数人の子どもたちが凍った噴水をスケートで滑って遊んでいる。

 噴水でスケート!?って最初に見た時は驚いたけど、最近はもう見慣れてきた。

「花ちゃん、そういえばこんな時間だけどお子さんは平気なの?」

「ベビーシッターに見てもらってるから、大丈夫だよー」

「そうなんだ?」

「料理教室の時もだけど、時々大人だけの夜のパーティーに呼ばれたりするから、そういう時も頼んでるんだ」

 なるほど。確かに大人だけのパーティーって時々ある。ドイツに限らないのかもしれないけれど、こっちの人たちは子どもの時間と大人の時間を明確に分けていて、大人向けのパーティーに子どもは連れていかない。

「そういう時にお子さんをみてくれる人いると安心だね」

「まあねえ」

「お母さんが出かけちゃうと寂しがらない?」

「全然へーき!お菓子なんて持って帰ったら、もうイチコロだよ。今回もあっという間にガキどもに食べられちゃいそうだなー」

「足りなくなったら言ってね?うちはそんなに食べないから」

「うん、きっと分けてもらうことになると思うから、そん時はよろしくっ!」

「うん」

 花ちゃんは幸せそうに「じゃあね」と笑って手を振った。

 ハート型のレープクーヘンを見て、阿久津課長は花ちゃんを追いかけた日のことを思い出すんだろうか。

 普通に見える夫婦でも、その背景には人それぞれ、いろんな物語がある。

 愛する人と愛する人の子どもたちに囲まれた生活。花ちゃんは本当に幸せだね?

 さてと!帰ったら隼人さんに私の作ったレープクーヘンを見せてあげよう。

 そして、お母さんの話をしてみよう。
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