嫌われ者に恋をしました*エピソードplus

 困惑しておろおろしていたら、ふわりと抱き上げられた。

「うわっ!」

 あ、お姫さま抱っこ……、ちょっと久しぶりかも。包み込む腕の感触にドキドキする。見上げるとその瞳には野生が揺らめいているみたいで、一層ドキドキしてしまう。

「で、でも隼人さん、まだ帰ってきたばかりですよ?」

「関係ないよ」

「お風呂は?」

「あーとーでっ!」

 私の小さな抵抗なんて全く意味はなく、あっさり運ばれてベッドに沈められてしまった。

 目の前で長い指がネクタイをぐいぐい緩めるしぐさが色っぽくて、思わず息を止める。

 スーツの隼人さんに押し倒されるなんて、いつもと違うシチュエーションに心をかき乱されて変な気持ちになる。こんなこと、今まであったかな?

「雪菜があの絵を一生懸命描いたなんて、たまらないよ」

「……」

 隼人さんのツボってよくわからない。子どもみたいな拙い絵を描いたことがそんなに良かったの?まさか、ロリコ……?

 そんな疑問は、柔らかく重なったキスに溶かされて、いつもより狂おしく求めてくる隼人さんに翻弄されて、いつの間にかどこかへ消えていった。

 私はいつもあなたに溺れてしまう。私の王子様に私はいつも夢中になってしまうのです。

 抱き寄せられて素肌の胸に頬を寄せた。目を閉じてじっと感触を味わう。暖かくてしっとりしていて分厚くて。この感触が大好き。

 それにしても、隼人さんはいったい何に熱をあげたの?

「隼人さん、あの幼稚な絵のどこが気に入ったんですか?」

「絵が気に入ったって言うか、雪菜が絵が下手だなんて知らなかったからさ」

 ……今、ハッキリ下手って言いましたね?

「知らなかった雪菜の一面を知ったら、たまらなく可愛くて、なんだか止められなくなった」

「……絵が下手なんて、ダメダメですよ?」

「ダメじゃないよ。あれを一生懸命描いてる雪菜を想像したら、たまらない気持ちになったんだ。どんな雪菜も好きなんだよ。どんな雪菜も全部愛してる」

 隼人さんは私をそっと抱き締めて顔をすり寄せた。くすぐったいけど、嬉しい。

 ダメでもいいの?

 全部愛してるなんて……。愛する人に愛してるって言ってもらえるなんて私は本当に幸せ。胸がじんわり熱くなる。

 お返しみたいに私も隼人さんの胸に頬をすり寄せた。
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