嫌われ者に恋をしました*エピソードplus

 隼人さんは驚く私をじっと見つめ、それからプッと笑った。

「ウソウソ!阿部は栄転だよ。飛ばしてないから大丈夫!雪菜はすぐ本気にするのな」

 本気にしたよ!びっくりしたじゃない!

 最近隼人さんは、私が何でもすぐに本気に受け取るから、それをネタにいじってくる。

 真面目な顔をして「雪菜が冗談を冗談として認識できないのは、常識がないからなんじゃないだろうか。冗談っていうのは常識があって初めて理解できるんだろうね」なんて冷静かつ残酷な分析までしながら。

 すみませんねっ!そうですよね?私って常識ないですよねっ?そうですとも。私、まともな家庭で育ってませんから、常識ないんです!

 でも、「どうせ私は常識がないもん」と言ってやさぐれると、隼人さんは「雪菜がふて腐れるの可愛い。そんな雪菜も全部好きなんだ」なんて言って抱き締めてくるから、単純な私は自分に常識があるのかないのかなんて、どうでもよくなってしまう。

「……隼人さん、また私で遊んでるでしょ?」

「雪菜が俺を悪者みたいに言うから仕返しだよ。それに、そういう雪菜が可愛いからさ」

「……」

 またそんな風に言う。そんなこと言われたら言い返せなくなるのです。

「で?」

「?」

「雪菜が考えてたの、そんなことじゃないだろ?」

 あ、バレていますね?

 そうです。私が考えていたのは、エロい下着を買うべきか否かだったのです。でもそんなことは恥ずかしくて言えません。だから、別の話をしてみた。

「……花ちゃんにちょっと相談してみたんです」

「何を?」

「えっと……子どもの、こと」

「そう」

「それで……毎朝、体温を測るといいよって言われて、体温計を買ってきたんです」

「ふーん、そっか」

「……」

 ここから先が言えないっ。

 それでね、いつがいいタイミングだから、その日がいいの!なんて、言えない……。
< 92 / 134 >

この作品をシェア

pagetop