嫌われ者に恋をしました*エピソードplus

 でも、隼人さんはそんな私の心を読んだかのように目を細めてニヤリとした。

「今日はバスタブには浸からないよ」

「え?」

「今日はシャワールームで体を隅々まで洗ってあげるから、雪菜は俺に体を洗われてる自分の姿を鏡で見るんだ。ちゃんと見るまで、やめてあげない」

「はっ!?」

 体を洗われてる自分の姿を見る……?

 ……!!

 エエーッ!?
 ムリムリッ!
 そんなの絶対に無理!

 ブンブンと頭を振る。

 それ、とんでもなく恥ずかしいですよ?考えただけで耳まで赤くなる!よくもまあ、そんな恥ずかしいことを思い付きますね?

 だいたいあなたは今、その明晰な頭脳を私に恥ずかしい思いをさせることだけに傾けているのですか?

 もうっ!バカなんじゃないの!?

「お……お断りします!子どもじゃないんだから、体くらい自分で洗えますのでっ!」

「雪菜に拒否権はないよ。俺が洗ってあげるって言ってるんだから、ありがたく隅々まで洗われなさい」

 なに自分勝手なことを言ってるの!

「そんなのズルいし、変態です!」

「好きなように言えばいいよ。何と言われようと俺の計画に変更はないから」

「……」

 完全に開き直ってる。……困った。どうしよう。もう、逃れられない?何とかならない?このままじゃ……大変なことになっちゃう。

 あっ、そうだ!

「わ、私もう何にも恥ずかしくないから、わざわざ隼人さんのお手を煩わせて恥ずかしい思いなんてしなくても大丈夫ですよ?」

「恥ずかしくないなら体を洗われるくらい平気だろ?」

 あ……そうか。

 そうですよね?そうなりますよね?だんだんパニックになってきた。

「恥ずかしくないです!平気です!だからって今日一緒にお風呂に入る必要はないのです!」

「いやいや、今日入らないと意味がないよ。……それとも本当は恥ずかしいのかな?」

「……恥ずかしく、ないです」

「本当は恥ずかしいくせに。ほら、恥ずかしいって言ってごらん」

「……」

 目を細めて囁くようにそんなことを言って。隼人さん、なにを楽しんでいるの?

 そんなに恥ずかしいって言ってほしいなら、逆に認めてみようか?押してダメなら引いてみる?

「……ホントは恥ずかしいです。そんなの無理です。だから、ごめんなさい」

 チラッと見ると、隼人さんは余裕な表情のまま、またニヤリとした。

「だからこそ、恥ずかしくなくなるように、あえて恥ずかしいことをしようとしてるんだけどね」

 うーん、ブレませんね。

「そんなことをしたら、ショックでますます恥ずかしくなっちゃうかも」

「いやいや、ショック療法っていうものもあるからね。問題ない」

「今日はアノ日なので……」

「嘘はいけないな」

 ああもうっ!どっちに逃げても囲まれて逃げ道がない……。

 隼人さんは今日一番悪い顔をした。

「雪菜、チェックメイトだよ」

「……」

 思わずため息をつく。私の負け、ですね。

 その夜、私がどれほど恥ずかしい目に遭ったのかは……ちょっと言えない。
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