嫌われ者に恋をしました*エピソードplus
イースターの前日、ハンブルク郊外のエルベ川沿いで行われたイースターファイアを隼人さんと一緒に見に行った。
イースターファイアとは、魔除けや五穀豊穣を願うもので、イースターの前日に川のほとりで家より高く積み上げた木を燃やす。
私たちが着いた時にはかなり大きな炎が空に向かって渦を巻いて燃え上がっていた。その火はびっくりするほど巨大で、遠くからでもよく見えて圧倒される。
ハンブルクのイースターファイアは歴史があり有名らしく、観光客もたくさん来て混みあっていた。ビールやグリューワインを飲んでいる人もいる。それでもカーニバルほどの騒ぎではなかった。
みんなで喋りながら立ち昇る炎を見上げる。時々燃え盛る木が弾けて大きな音がすると、オーッと盛り上がるくらい。
炎って不思議だ。
ゴウゴウパチパチと音を立てて激しく燃え上がる炎をじっと見ていると恐怖を感じる。でもなぜか、じっと見ていたいと惹き付けられる。
惹き付けられる、というより、克服したい、に近い感覚だろうか。
ふと横に立つ隼人さんを見上げた。隼人さんはじっと炎を見上げている。眼鏡に炎がゆらゆらと映り、赤い火が頬を照らす。
うーん。炎をじっと見つめる、そんな姿も素敵。私にはもったいない旦那様。
そういえば、隼人さんに映った炎を見ても恐怖を感じないなあ。
炎の恐怖なんて克服しなくてもいいから、隼人さんに映る炎を、いえ、隼人さんをずっと見つめていてもいいよね?
そんな勝手な言い訳を胸に、隼人さんをじっと見つめた。気が付いてくれないかな、なんて思いながら。
当然、そんなに穴が開くほど見つめていたら隼人さんは気が付くわけで。
最初に気が付いた時、隼人さんはチラッと見おろしただけだったけれど、それでも見つめ続けると、我慢できないという表情でプッと笑い、首を傾げて私を見た。
「何?どうしたの?そんなに見つめて」
「隼人さんに映った炎は怖くないから……」
「俺に映った炎?あはは、雪菜はあのたき火が怖いの?」
たき火!?あの巨大な火柱、たき火というレベルですか!?隼人さんにはあの炎がそんなに大きく見えないのかな?
「だって……、すごく大きいんだもの」
「そういう怖がりな雪菜も好きだよ。でも、一緒にいるから大丈夫」
隼人さんはそう言うと、後ろから包むように私を抱き締めた。