嫌われ者に恋をしました*エピソードplus
遠くで火柱がパキパキッと音を立て、火の粉が飛んで歓声が上がった。
飛んだ火の粉を見てふと気がついた。炎が怖いのは煙草の火が怖いからかもしれない。
子どもの頃、煙草の火を近付けられるとあまりの恐怖に心が凍った。煙草の先でチリチリと赤く燃える小さな丸い火は、あの巨大な火柱よりも暴力的で威力があるように私には感じられる。
うーん、嫌なことを思い出してしまった……。
無性に甘えたくなって、隼人さんにぐりぐりと擦り寄って腕に頬を埋めた。
「どうしたの?」
「ぎゅーってしてほしいの」
フフッと笑って隼人さんは私を強く抱きしめてくれた。
はあ……、この圧迫感と窮屈な感触、すごく安心するの。
腕の中に包まれたら温かくて、体がぽかぽかしてきた。頭の上から隼人さんの声が聞こえてくる。
「雪菜は最近怖がりじゃなかったから、頼られるとちょっと嬉しかったりするよ」
最近の私、怖がりじゃなかった?それは怖がる場面がなかったからでは?私はこんなに隼人さんを頼りにしているのに。
腕の中から隼人さんを見上げた。
「私、いつも隼人さんのこと頼ってますよ?」
「……うん。それはわかってる」
隼人さんは炎を見つめたまま腕に力を入れた。
「そうじゃなくて、何て言うのかな。最近の雪菜はさ、自分とちゃんと向き合って、いろんなことを真摯に考えただろ?だから、雪菜は強くなったんだと思う」
「……」
私、強くなったのかな?
確かに、私はドイツに来てからいろんなことを考えたと思う。
仕事を辞めて自分の時間が増えたから、自然と考え事をする時間が増えた。それに、初めて触れ合う未知の文化の中、花ちゃんやレベッカさんみたいな新しい知人もできて、いろんな刺激があったからかもしれない。
そして考えたことを隼人さんに話して、手伝ってもらいながら少しずつ噛み砕いて消化してきた。
もし私が強くなったのだとしたら、それは隼人さんがあってのことだと思う。
「もしそうだとしたら、それは隼人さんのおかげです」
「そう?嬉しいね」