嫌いになりたい
「で、今日はなんで1限休んだの」
一行だけレポートを進めたところで、私は画面を見たまま苑実に問う。
2年の後期。
時間割に恵まれた結果、1限は今日オンリー。
週に一度くらい早起きしても罰は当たらないと思う。
「別に大した理由なんてないよ~?この講義だけ出席取らないからさ、気抜いちゃうんだけだって」
軽く答える苑実に、私は即座に疑いの眼差しを向けた。
確かに必修なのに出席を取らないのもおかしな話だ。
専門系の講話を聞かないのは後々自分の首を絞めるだけですよ、という教授の意図ならば大賛成だけれど。
それでも、今日の彼女はそれだけに思えない。
なんとなく勘が働く。
すると、観念したのか苑実はわずかにペロッと舌を出した。
「えへっ、彼氏が離してくれなくて」
瞬時に幸せオーラを発する苑実に、私は盛大な溜息をついた。
「そんなことだろうと思った」
「勘違いしないでよ?私はちゃんと1限行く気満々だったの!」
「嘘だ」
「嘘じゃないー!だって、あっちが久し振りの休みだからって粘られたんだもん」
「ふーん。で、結局流されたと」
「まぁ、そんなとこです」
100%彼氏に罪を着せようとする苑実は、100%間違っていると思う。
だけどきっと、ここでも私は返り討ちに遭う可能性大だから、余計なことは口にしないでおく。
それに、一足早く社会人になった、1歳年上の彼氏を追いかけて上京。
遠距離を経ての今に、幸せいっぱいなのは言わずもがな。
だから、にやけまくりの彼女を見ていると、なんだか問い詰める気も失せてしまう。
「ベッドから出らんないし」
「はいはい」
「今日寒かったし」
「そうだね」
「第一、寝不足だし」
「わーかったって!」
それでも、止めなければ延々と繰り返されそうな雰囲気を感じ、強制的にシャットアウトする。
人の色恋沙汰、より一歩奥深く踏み込んだ話なんて朝っぱらから聞くもんじゃない。
「親友の幸せは共に喜ぶべきだよ?」
「そうですか」
「って、これ系の話は茗ちゃんにはキツイかな?」
「うっさいな!」
勝ち誇った笑みを向けられて、思わず大声を上げる。
少しだけ冷めたコーヒーを顔面に浴びせたい勢いだ。