嫌いになりたい
「仲いいよねぇ、羨ましい」
「思ってもないこと口にしなくていいし」
「ちゃんと思ってるって。もう何年一緒なんだっけ?」
「忘れた」
諦めて大して進まなかったレポートを閉じる。
かわりにネットで新刊書籍のチェックを開始。
昔からの趣味。
ゆえに今、人文学部に所属していると言っても過言ではない。
「でもさぁ、茗」
「なーにー」
「柊汰くんって人気あるんでしょ?あの見た目だし」
視線を画面から移動させないまま、私は戯言に適当に言葉を返す。
「知らないけど」
「史学科の友達に聞いたけどさ、狙ってる子いっぱいいるって」
「ふーん」
「余裕ぶってると取られちゃうと思うけど」
「どうでもいい」
本当に、どうでもいい。
「ったく素直じゃないなぁ。好きなくせに」
溜息まじりの一言に、脳内がピキッという音を立てた。
「……あと1時間以内に写さなきゃノート没収ね」
無駄口叩いてる暇があったらやるべきことをやれ。
威圧感たっぷりに警告すると、苑実は若干肩をすくめてようやくルーズリーフにペンを走らせた。
この世で一番どうでもいい話をするためにここにいるわけじゃない。
そもそも、取られるもなにもあいつは私の所有物じゃないのに。
たとえ隣に住んでいても、結局は赤の他人。
遠くの親戚より近くの他人は理解できても、私は柊汰を思い通りになんてできない。
するつもりもない。