嫌いになりたい
正面から聞こえる呆れた溜息。
苛立ちを感じた私は聞こえない振りをした。
「……めーい」
返事なんてしない。
「ほんとはわかってるくせに」
「……何を」
「おかげで現役合格できたわけでしょ?」
一際落ち着いた声とは反対に、私は、うっ、と怯んだ。
「完璧柊汰くんのおかげじゃん!命の恩人じゃん!」
どこからかビシッという効果音が聞こえてきそうなほど。
苑実は失礼なくらいに人の顔を指差していた。
「落ちてたら私とも会えてないわけだし」
「それは否めないけど」
「否めないどころか100%そうだから。私も感謝したいくらいだよ。足向けて寝れないレベルでしょ」
そう言うと、苑実は今さら真面目に右手を動かし始める。
基本おふざけ担当のくせに、ごく稀に的を射る発言をする。
「……そうでゴザイマスネ」
そう、頭ではわかっている。
時々放たれるそれが的確すぎて、居心地を悪く感じても。
彼女の言うことはなにひとつ間違っちゃいないと。
柊汰がいなければ私はここにいない。
今頃3度目のセンター試験に向けて、必死に机にかじりついていたかもしれない。
たった一人で、思うように進まない受験勉強に嫌気が差しながら、でも、やらなければ受かるはずもないから隠せない焦りと共に勝負の日までを過ごしていく。
完全なる悪循環の中で、私は合格なんて手に出来たのだろうか。