嫌いになりたい
反論しない私に気付いてか、視界の隅で苑実がペンを置く。
「うまくいくことを想定しないの?」
真面目なトーンで聞かれても、不思議と一度もないのはどうしてか。
そんなの、うまくいくはずがないからに決まってる。
「……私はさ、出来の悪い姉くらいにしか思われてないから」
ボソッと言うと、どういうことと聞き返される。
「どういうことって、そのま~んまの意味。勉強の出来ない頭の悪い姉ですよ。本人にも言われたことあるくらいだし。『茗ちゃんってお姉ちゃんみたいだよね』って満面の笑みで。お前はあんな優しい姉がいるのにまだ姉が欲しいのか!シスコンかっ!」
自然と強まる語尾。
思わず大声を上げた私の唾が、豪快にデスクトップに飛んだ。
苑実のペースに乗せられたことを悔やみつつ、とりあえずこの失態を取り繕うためにボックスティッシュで画面を拭く。
それでも思うのは、うちの兄貴をあげるからかわりに欲しいってこと。
「まぁ、シスコンっぽい顔はしてるよね」
でも、ふざけて頼んだって柊汰は絶対にうんとは言わない。
実のところリアルシスコンで、頭は上がらないし、二人で出掛けたりもしている。
何かあれば逐一報告、そして相談。
たとえそれがコンビニでジュースが当たったとか、そんな些細なことでも。
だからきっと、私はそのレベルだ。