嫌いになりたい
「万が一、億が一、兆が一」
『桁が多いよ』という突っ込みも無視。
重要なのはそこじゃない。
言いたいことはそんなことじゃない。
「……苑実」
「ん?」
「兆が一、私が柊汰を好きだとしても、無理なもんは無理なのよ」
柊汰の口癖。
“頼りになるね”
いつからだろう。
頼られることは嬉しくても素直に喜べなくなったのは。
いつからだろう。
聞きたくないとさえ思うようになったのは。
「だけどさ、私もそろそろ人並みに恋愛しといた方いいよね」
それでも世話を焼いてしまうのは、もはや染みついた癖なのか。
脈絡の欠けた話に戸惑いの一文字が聞こえようとも。
言いたいことはちゃんと言わなければいけない。
「家族は恋人同士になれないの」
重みを持たせるのは演技でもなんでもない。
「そんなの誰だってわかってること」
わかり切ってること。
今さら穿り返したくもない。
「私の人生これからだし。まだ若いんだから法を犯したくない」
「い、いや、あんたたちは本当は家族じゃ、」
「みたいなもんでしょ。本人もそう言ってんだから。姉は立派な家族。無理なもんは無理」
危ない橋を渡ることになんのメリットがあるのだろう。
確実に訪れるきまずさに怯える日々は御免だ。
身内からの風当たりの厳しさも考慮すれば無意味な行動。
苑実の言う先生と生徒より禁断だ。