嫌いになりたい



後方から名前を呼ばれた。

耳馴染みの眠そうな声。
完璧に振り返ることなく軽く視線を向ければ、そこにはいつもの男がいるだけだ。


「茗ちゃん、おはよ~」


朝に限らず、いつだって不変のこの表情。
大きな欠伸は絶対的なオプションで、日付が変わる前に床に就いたはずなのにどうしてこうも同じことを繰り返すのだろう。

お肌のゴールデンタイム(ここでは12時から2時とする)に布団を被りたいのはこっちの方だ。


「おはよ」


一応小声で返して先を行く。

昨夜の天気予報では薄っすらと雪が積もると言っていたのに、アスファルトはしっかりと顔を見せている。
おかげでスタスタと歩けることに感謝しても、寒がりにツライ朝ってことに変わりはない。


「茗ちゃんも1限?」

「そうだよ。ってか、毎週水曜日はいつも会うでしょうが。いい加減同じこと聞くのやめてよ、飽き飽きする」

「だって眠いんだもん」


全くをもって理由にならない理由に、ここでもお得意の欠伸を追加する。
そして、少しだけ色素の薄い髪をくしゃっとかき上げた。

適度に天パが入った髪は、毎朝鏡の前でワックスを使わなくてもなんとなくキマる。
一分一秒、少しでも多くの睡眠時間を確保したいこいつにとって昔から一役買っている。
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