嫌いになりたい

だから、現状が信じられなかったりする。


思い返せば、初めて会ったときも柊汰は眠そうな顔をしていた。

一家総出で挨拶に来たのは2学期の始業式、一週間前。
このご時勢に丁寧な家族だなと思いつつ、お母さんに呼ばれてこちらも一家総出で自己紹介をした。

そのとき、柊汰が同じ中学一年生だと判明した。

当然、同じ中学に通うことになり、だけどまさか同じクラスでしかも隣の席、その上担任には『隣人だろう、いろいろ世話してやれ』なんて小学校低学年じゃないんだからバッカじゃないの、と思っていたけれど。
柊汰は優しく微笑んで、『よろしくお願いします』と私に言った。

転校生をぞんざいに扱うほどひねくれていないし、確かに隣人という手前、親切にしといた方が無難かなと思い、厚かましくない程度に接した。
柊汰もわからないことは何でも聞いて来たし、いちいち丁寧にお礼を言うから悪い気はしなかった。

そして、二週間も経過した頃、私は毎日HRギリギリに登校する柊汰に聞いてみた。


『そうなんだ、俺、朝弱いの』


学ランは乱れているし、頭はボサボサ。
正直、目が開いている気がしなかった。

そして、そんな超絶朝が弱い柊汰を、お願いだから学校まで連れてってと頼んで来たのは奴のお姉さん。
冗談でしょと思ったのに、うちの家族(特に兄貴)まで面白がる始末。
結局、迎えに行くくらいならいいかと安易な気持ちだったはずが、いつからか布団を引き剥がすまでになってしまった。

支度を急かして完了するまで、榎並家のリビングで紅茶を頂くなんて普通じゃ考えられない。

遅刻の巻き添えを喰らいそうになったことだってあるのに、もはや乗りかかった舟状態。
榎並家全員に感謝されるし、責任放棄なんて出来なかった。
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