嫌いになりたい

そして、後ろ髪を引かれながらもその場を去ろうとしたとき、視界の隅に見飽きた人物が映り込んだ気がした。
マスカラやらアイライナーが落ちるから目をこするなんて古典的芸はしないけれど、思わずやってしまいそうなくらいのタイミング。

あ、と言いかけたところで、先手を取られる。


「茗ちゃん?」


やっぱりと思ったときには軽く手を振っていて、なんだか久し振りな気がするのは今年最後の講義が火曜日だったせいか。
それとも節約のために私が学食に行かず弁当持参で研究室にいたせいか。

そして、柊汰以外にも周囲に人はいるのに、彼から目が離せないのは久々のアルコールに酔っているせいか。

結局はどうでもいい。
目の前で立ち止まった柊汰は穏やかな笑みを浮かべていた。


「茗ちゃんも飲み会?」

「柊汰も?」

「うん、ゼミ飲み」


そう答えた奴のそばには何度か見たことのある顔。

学内で会っても柊汰は必ず声を掛けてくる。
名前は知らなくてもなんとなくの記憶だけはある。


「こっちも」

「茗ちゃんのゼミって女だけなんだっけ?」

「そうだよ。花の園だよ、楽だよ、女だけ」


それに比べて、柊汰のゼミは視界に映った限りでは女子数名。
勝手な想像だけど、彼女らはもしかしたら歴女というやつか。
赤いフレームの眼鏡がなんだかとても知的に見える。
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