嫌いになりたい
「ってか、柊汰が1限とかよく取ったって今さらながら思う」
白い息が宙に消えていく。
視覚でも今年最低気温を実感したところで、買ったばかりのモッズコートのポケットに手を入れる。
微々たる寒さ凌ぎをするより、素直に手袋を持って来ればよかった。
「仕方ないよ。俺だって本当は1限なんか取りたくないけど必修なんだもん。卒業できないのは困る」
いつのまにか勝手に肩を並べて歩く柊汰は、珍しく膨れっ面をしてみせる。
大学に入ってからは週に1、2度と頻度は減ったけれど、高校を卒業するまで毎朝一緒に登校していたのは、別に好き好んでやっていたわけじゃない。
「まだ沙智子おばさんに起こされてるわけ?」
「ん~、頼んでないけど起こされる」
「それはあんたが起こさなきゃ起きないからでしょうが」
「え~、おなか減ったら起きるよ?」
そういう問題じゃねーよ。
私の任務は今は柊汰のお母さんに戻っただけで。
そもそも私がやるべきことではなかったのだけれど。
柊汰とは正反対に、榎並家の女二人は明るくて強引。
私に拒否権行使の隙を与えなかったせいだ。
「ハタチになってまだこんなとか先が思いやられる……」
「茗ちゃんってば心配してくれるの?ありがとう」
悠長なこと言ってんじゃねーよ。