嫌いになりたい
「ったく……。あれでしょ、柊汰は一人暮らししたら絶対に毎日遅刻だから、それを見越して実家から通える大学にしたんでしょ?頭いいくせになんなのよ」
いくらいい大学に入ったって単位を取得できなければなんの意味もない。
講義に出られないなんてもっての外だ。
「え、違うよ?」
と決めつけていた私の耳に届いた声は、お前何言ってんだという響きを含んでいて。
それでも変わらず疑いの眼差しを向ける私に、柊汰はゆっくりと答えた。
「……ん~、まぁ、それも無きにしも非ずだけど1%くらいかな。一番は、ちゃんと行きたい学部があったからだもん」
それに、憧れの教授がいたから。
そう言って、微かな笑みを浮かべる。
意外にも芯の通った理由に少しだけ自分が幼稚に思えた。
ムカつく。
“俺は未来をちゃんと見据えてます”
な~んて、万年寝ぼけ顔のくせに立派な振りなんてしないでよ!
「それはそれはすみませんでしたね」
わかりやすい口だけの謝罪にも、柊太はいつものように微笑むだけ。
変わらない。
私が何万回悪態をついたとしても、柊汰は一度だって怒ったことはないのだ。
そう、いつだって不機嫌なのは私。
あなたの前では可愛げのない私。