嫌いになりたい
静かな室内に響いたバイブ音。
パソコンのキーをタッチする手を止めてiPhoneに手を伸ばした。
【研究室?】
たったそれだけの内容に、私も淡白に二文字で返す。
すぐにつく既読マーク。
直にここを訪れるであろう人物のせいで作業の中断は必至。
仕方がないのでついでに一息入れようかと、私は思い切り背伸びをして空のカップを手に扉近くのささやかな給湯コーナーに向かう。
次はこれにしようと決め、固めのキャップを力づくで回していると研究室の扉が開いた。
「ノックくらいしなさーい」
振り返らずに言うと、すぐに声が返って来る。
「寒い~」
答えとは言えない答えにいちいち突っかかるのは時間の無駄だと感じなくもないけれど。
そこまで非情になれないのは、彼女が大学で一番仲のいい親友だからだ。