嫌いになりたい
「飲む?」
「飲む!」
「ブラックでいいよね?」
「イエース」
戸棚から赤白チェックのマグカップを取り出し、通常の1.5倍のインスタントコーヒーを入れる。
パイプ椅子を引く音、続いて腰掛ける音が聞こえる。
ついでに豪快な欠伸まで届くもんだから、どいつもこいつもありえないと項垂れそうになった。
けれど、小さな文句は心の中に留めておく。
私ってば正真正銘大人、なんて言ったところで返り討ちに遭うだけ。
勝ち目はない。
「はい」
「あんがと」
向かいの席に座った苑実はiPhoneをポイッとテーブルの上に滑らせる。
「いい加減ちゃんと1限出なよ」
そんな彼女に対して、自分専用マグカップを手に、溜息まじりに注意する。
「ごめんごめん」
「ちゃんと出なよ」
「わかってるって!ってか、1年のときから全講義皆勤賞の茗が珍しいだけだって」
ときにはサボらなきゃ、と悪びれた様子の全くない彼女に、私は渋々ノートを渡す。
「毎度ありがとね。すぐに写すわ」
そう言って、彼女はバッグからペンケースを取り出した。