私が彼を好きな理由。
私が彼を好きな理由。
「レイ、お願いだからどこにもいかないで」
星空の下で彼が言った。
2月、極寒の夜。
コートを着て、マフラーをして、それでもやっぱり2時間も外で待っていた彼の身体は震えていた。
すがるように私を抱きしめ、離さないと言うようにすっぽりと覆う。
「……」
「レイ、聞いてる?」
それには何も返さなかった。
ただ、離れないよ。そう意味を込めて、その酷く震える身体を抱きしめた。
強く抱き合った身体から彼の体温が伝わって、お互い熱を共有する。
この季節に2時間も、それもマンションの冷えたコンクリートの上で座っていたなんてよっぽどの理由がないとできやしない。
「私が帰ってこなかったら、ずっと外で待ってるつもりだったの?」
「うん」
「馬鹿だね」
「知ってる」
でも彼はこういう男なのだ。
雨でも、雪でも、雷でも、灼熱の太陽の下でも、たとえどんなことがあろうと、私のためならいくらでも待つのだ。
その姿は忠犬ハチ公のよう。
馬鹿だと思う、本当に。
「コーヒー、飲む?」
かじかんで上手く動かない手で鍵を開け、部屋に足を踏み入れる。
「……レイは優しいね」
彼は一言つぶやいて、私の後をついてくる。
少し脱ぎにくいロングブーツに苦戦していると、「そこ座って」彼が玄関に置いてあった椅子を指差した。