私が彼を好きな理由。
指示通りそこに座ると、私の代わりにブーツを脱がせにっこりと笑う。
“ ……レイは優しいね ”
それは彼の口癖だった。
何が優しいのかわからない。
何も特別優しくしたわけでもない。
なのに彼がよく口にするから、
時に自分の中の、“ある秘め事”を思い出して辛くなる。
だからその言葉は嫌いだった。
彼を部屋へ招き入れ、お湯を沸かす。
「はい」
湯気の立つコーヒーを渡す頃には、彼の冷え切っていた手も幾分か温もりを取り戻したようだった。
「ありがと」
彼が口に運んだのを見届けると、私もほろ苦い香りのするカップを近づけた。
熱いくらいの液体は、冷えた体を通り胃のある場所でじんわりととどまる。
不意に、彼に聞いてみたくなった。
「ねぇ」
「なに?」
「私が今日どこ行ってたか知りたい?」
「………」
「………」
「………いい」
長い沈黙が続いた後、一言だけそう返した。
きっと何かを堪えているような、そんな声だった。
彼がこう返すのは大体検討がついていた。
2時間も待ったのに、彼はその待った理由を知らなくていいと言うのだ。
それはきっと、聞いてしまうと最後になると分かっているから。
何もかもが終わってしまうと、知っているから。