私が彼を好きな理由。
「……レイは優しいね」
眠りに着く直前、彼はまたあの言葉を口にした。
それは私にとって、何も素敵な言葉じゃない。
私の心をとことん締め付け、ただ縛りつけるだけだった。
翌日、朝起きたら彼は隣にいなかった。
時計を見ると針は9時を指す。
温もりの残ったシーツの感じからして、
ついさっきまで彼がここに居たと知る。
大方、寝ている私を起こさないように大学に行ったのだと思った。
彼は金曜日の朝一番に単位の落とせない大事な講義をとっている。
3年目のこの年、私たちは講義に実習に就活に追われ色々大変だった。
ふと視線を外すと、茶色い木目のフローリングに緑の手帳が落ちていた。
怠さが残る身体を動かすと、何も身につけてないことに気がつく。
寒さで一瞬震えた身体に毛布を巻きつけると、少し離れた場所に落ちていた手帳を拾いパラパラとめくった。
「……ソウタ」
無意識に零れた言葉で、すぐに彼のものだと判断できた。
そして生まれたのは、何とも言えない感情と。
“……レイは優しいね”
私を縛りつけようとするあの言葉。