私が彼を好きな理由。


私を優しいと言う彼は馬鹿だ。

何もかも知っているはずなのに、そんな事を言う彼は馬鹿だ。

そして知らないふりして、わざと部屋にこんなものを置いて行くのも馬鹿すぎる。


私は洋服を着て軽くメイクをし、鞄に彼の手帳を入れるとマンションを出た。


足取りは軽いけれど心は複雑だ。

そんなバラバラな状態でもあの場所へ、しかも彼の手帳を持って向かう私はどうかしてるだろうか。



駅を越え20分ほど歩くと、住宅街の中の一つの家の前で足を止めた。

それは昨日も見た光景だった。


マンションの前で、彼が昨日2時間も待っている間、私はこの家にいた。


「……レイ? ソウタなら今いないよ」


インターホンを鳴らすと、備え付けのマイクからすぐに声が帰ってきた。


「知ってる」

「じゃあなんで来たの」

「……あんたがいるから」

「………」

「嘘。ソウタの忘れ物届けに来たの」


私が最後まで言う前に、プツリとマイクが切れたのがわかった。

かじかんだ手を息で温めると、ガチャと鍵が解除された音がして、中から今の今まで話していた男が出てきた。

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