【完結】セ・ン・セ・イ
母を先頭に、朱莉、俺の順で玄関に向かう廊下で、

「ちゃんとテキトーに誤魔化すから、テキトーに話合わせてね」

……聞かなきゃ良かったそのセリフ。

本当に任せて良いのか、母よ。


だが、結局俺は、玄関までの見送りにとどめた。

「任せとけ」「今はあんたは着いてくるな」と、母さんの背中が言ってる気がしたから。


「朱莉」

最後の最後、母さんの後について家を出ようとした彼女を呼び止める。


「……困ったら、いつでも呼んで」

「センセ……あ、また!」

つい出てしまう『センセイ』という呼称に、朱莉は慌てて口元を覆った。

そんな仕草も可愛くて、気付いたばかりの気持ちが場違いに膨れ上がる。

彼女がそう呼びたいのなら、それでも良いと思ってしまった。


「――迷惑じゃ?」

「まさか」


ここに来て今さらなことを言うから思わずふっと笑いを漏らすと、彼女は安心したように目を細める。

それから、彼女にいつもの強気な目が舞い戻った。


「結構暇人なのね、センセー」

「お前なあ」

肩を揺らしてクスクスと笑う朱莉を見ていたら、もうどう思われたって構わないと思う。

暇人上等だ。


「お前が呼んだらいつでも行ける様に、暇にしておいてやるよ」

「!」

少しだけ虚勢を張って、上から目線で伝えたのは本心。

だけどそれは、朱莉のためじゃなくて、俺がそうしたいから。


だから、誰かを頼らないといけない時には、どうか俺を呼んで。
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