【完結】セ・ン・セ・イ
生徒指導、とか、そんな大それたことじゃなくて。

それについて本気で向き合うのは、多分、まだ早すぎたんだ。


俺はまだ、大人になり途中のただの学生で。

誰かの人生に口を出すなんて、俺自身の経験が乏しすぎて、出来るわけがなかった。


だからもっと、根本的な部分で。

一英語教師として教壇に立つ時の、不安。


「俺、発音悪い」

英語の成績は昔から良かった。

文法も得意だし語彙もそこそこ自信があり、耳も鍛えたつもり。


だから、だろう。

俺が口にした『不安』があまりにも予想外だったのか、親父は目玉が零れ落ちそうなほど瞼を見開く。

見開いたまま目線をつまみに泳がせたから、その様に危うく吹き出すところだった。


つまみを口に運び、ほとんど噛みもせずに飲み込んでから酒でそれを流し込んだ親父は、小さく「そうか」と何か得心したように呟いた。


「お前昔、滑舌悪かったもんなぁ」


え、そうなの?

全く身に覚えがなくて首を傾げると、親父は「覚えてないか」と苦笑する。


曰く、50音の中に発音できない音がいくつかあって、まだ小学校に上がる前に『ことばの学校』なるところに発音の練習に通っていたことがあるのだとか。


「今普通にしゃべれるのは、そのおかげってこと?」

いや、と肩を竦めて、親父は首を横に振った。

「そこは大した成果も出る前に、母さんが怒って辞めさせたから」

「……はい?」
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