【完結】セ・ン・セ・イ
朱莉の家のリビングにこれまではなかった仏壇が出てきたことを、俺は母さんから聞かされて知った。


「写真見て驚いた。朱莉ちゃんにそっくりよ」

と、なんでもないことのようにさらりと言う。


「それより、調子どうなの」

朱莉の母親の、という部分が抜けたが、母さんには通じる。

「今日は良かった。ちゃんと栞里ちゃんのことも分かってるみたいで」

仏壇を見ても素知らぬ顔をして、「前からありましたっけ」と尋ねたらしい。

そうしたら、ちゃんと末の娘のものだと説明を受けたと。


「それって……」

もう、大分改善してるってことなんじゃ。
それとも、もう治った?

「うん、母さんも期待したんだけどね」

と、期待を打ち消す苦笑いが返ってくる。


朱莉の母親といつものようにコーヒーを飲みながら話し込んで、仏壇には線香もあげさせてもらったらしい。

そして夕刻に家を出たところで、学校帰りの朱莉とばったり出くわした、と。


「会ったのか!?」

――俺ももう長いこと会っていないのに、と、若干の嫉妬心が非難がましい言葉になってうっかり零れた。

少し大きくなった声に驚いた顔をした母さんは、けれど動じずに話を続ける。


「まだ、波があるんですって。2年も放置してきたのだから、それなりに長引くだろうとお医者様は言ってるみたい」
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