【完結】セ・ン・セ・イ
「まあいいや、どうでも。お前に限って俺が期待するような展開は望めない」

実に残念そうにそう言って勝手に話を終わらせると、裕也はさっさとラーメンのどんぶりの載ったトレーを片付けようと席を立つ。

「それよりさっさと食い終わってくれない? この休み時間中に英語概論のノート写させろよ」

いけしゃあしゃあと上から目線で俺に命ずる男に、脱力してついため息が漏れる。

何を偉そうに、と思いつつも、最後の一口を水で流し込んで俺も席を立った。


問題児を抱える新米家庭教師という傍ら、冷静に振り返れば自身も前期試験に追われる一大学生だ。

幸いなことに俺にはそう切羽詰まった科目はない、一応は自分も教える立場になって以来、普段から単位の心配をするほど授業をないがしろにはしてこなかったから――、裕也とは違って。


食堂のあるA棟から図書館のあるD棟までの移動はほんの5分程度だが、それだけで汗だくになる。

ラーメンの汁まで完食した裕也は尚更だが、そこにはあえて突っ込まないでやった。


クーラーの効いた図書館にやっとの思いで辿り着いて一息ついて、並んで席を取ったところで概論のノートを出してやると、裕也は猛然とそれを書き写し始めた。

そんなんじゃ頭に入るまい、ただ写すのならコピーを取ればいいものを――と、若干うんざりした気持ちでその姿を眺める。

コピー機ならA棟にもあるのだから、ここまで歩かずに済んだのに。


と、することもなく手持無沙汰にぼんやりしていたところに携帯が着信を伝えた。
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