【完結】セ・ン・セ・イ
そりゃそうか、と、肩を落とす。

そんなにあっさりと解決するような生易しい問題なら、朱莉はあんなに苦しまずに済んだんだ。


「あいつ、元気そうだった?」

「何、連絡とってないの?」

意外そうな顔を見せてはいるが、母さんは本当は分かっているんじゃないかと疑ってしまう。

俺の気持ちも、俺からの連絡を絶っていることも、その理由も全部。


「そうだねぇ……」

と、少し斜め上に視線を流しながら朱莉の様子を思い返しているのか。

もしくはそういうフリなのかは――読めない。


前みたいに張りつめた感じはない、と聞かされて、ほっと力が抜けた。

母親の様子次第で、栞里の演技を続けながらも、たまには朱莉自身に戻れることもあるのだとか。

そういう時間が、少しずつでも増えていけばいい。

朱莉のためにも、あの家族のためにも。


「そんなに気になるなら」

続く言葉が予想出来て、牽制の眼差しを向けると母さんは肩を竦めて口をつぐんだ。


追究も、咎められもしなかったけれど――あの日俺がマグを割ったことが、母さんを傷つけたのだろう、と思う。


翌日には食器棚に、新しい俺用のマグが並んでいた。

似たようなギャグ顔入りのマグだったけれど、同じのは見つからなかったようで。

俺だって自分の行動に驚いたし、ほんの少しだけ、傷ついている。


「あれさ、新しいコップ」

棚を指して。

「――ありがとね」

ごめん、の代わりにそう言うと、困ったような、何とも言えないくしゃくしゃの笑顔が返ってきた。
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