【完結】セ・ン・セ・イ
「……後悔しないのぉ?」

「うわ! 何覗いてんだお前!」

後ろから肩越しににゅっと顔を出してきた木嶋に焦り、スマホを隠す。

が、メールの送信先が朱莉だとはバレてしまったようだ。


「んだよ、後悔って」

「だって、好きだったんじゃないの?」

「誰がそんなこと」

何で知ってんだよそういうことを。

全否定しておかないと、こういう話には絶対アイツが食いついて来る。

それだけは全力で遠慮――


「マジで! 何、誰! もしかしてお前!!」

「……遅かったか」


逆サイドからテーブルを飛び越えてきた裕也の襲撃で、手の中のウーロン茶が少し跳ねた。

「勝手に決めんな木嶋。裕也、今のでパンツ濡れたから弁償な」


サークルのクリスマスイベント、という名の、ただの宴会。

強制力のない集まりだけに当然彼氏彼女がいるやつは不参加、の割に、むしろ普段より集まりが良いのはやはり、イベント効果だ。


俺のグラスをもぎ取って近づけた鼻をすんと鳴らした裕也は、「たまには飲めよ」と背中を叩いてくる。

「飲まなきゃ出来ねえ話もあんだろが」


――俺がそれで簡単に漏らしてはいけない生徒のプライベートをつるりとしゃべってしまった過去を、忘れてるんだろうかこいつは。


「お前の恋バナなら、別に飲まなくても聞いてやるぞ」

「そんなネタあったら今日ここに居ねえ!」

大げさに声を高める裕也を、「確かに」と木嶋が笑う。

宴会の席の隅っこに、結局集まるのはいつものメンツだ。


だけど

「そういう話じゃなくてよ」

声色を変えた裕也の真剣な表情に反応して、崩していた姿勢が少し改まる。

何かを確認するように、裕也と木嶋が視線を絡ませ頷き合った。


そして何故か、

「そういう訳だから、進藤くんも今日は飲もう」

――俺は木嶋に、酒を注がれる。
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