【完結】セ・ン・セ・イ
「――瀬戸?」

ディスプレイの表示に、無意識に声が漏れる。

瀬戸朱莉の携帯番号は別に登録してあるから、名字のみで登録されたこの番号は朱莉の家の電話だ。

朱莉の携帯から直接連絡が来たことは一度もないが、家から着信があるのも初めてのことだった。


「――はい、進藤です」

『あ、先生? 瀬戸朱莉の母です』

いつもお世話に、と、ありふれた挨拶からその声は話し始める。

生徒の保護者からの電話というだけで一瞬身構えたが、その声の調子から、何か問題や緊急事態が起きたというわけではなさそうだった。


怪訝そうに顔を上げた裕也にジェスチャーで断りを入れ、図書館の外に出るとまた蒸し暑い熱気に襲われた。


「どうしました?」

『実は、夏休み中の授業のことなんですが』

用件は簡単だった。

夏休み中、授業の時間を午前中に変更してほしい。


今日だって夕方になれば家庭教師に行くのに、わざわざ電話してくる辺りに生真面目さが表れている。

しかし高校生の夏休みと言えばもう来週にも始まるはずで、何とも急な変更要請だ。

思い立ったらすぐに――という所か。


おっとりとした朱莉の母親の性格とそれに反したせっかちな一面が、何となく窺い知れた。
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