【完結】セ・ン・セ・イ
同時に、思う。

大学生という素性を知った上で平日の昼間に電話をかけてくるなんて、こちらの都合を全く考えていないんじゃないかと。

少しばかり利己的にも感じられるこういった行動も、何でも思い通りになってしまう上流階級ゆえの特性なのだろうか。


――貧乏人のひがみか、と、自嘲しながら額に滲んだ汗を拭った。


「申し訳ないのですが、7月中は大学の講義が。8月に入れば時間の調整は可能です」

細かい調整は今日伺った時に、と、手短に電話を終わらせて図書館に戻る頃には、もう汗で背中にシャツが貼りついていた。

最悪だな、瀬戸朱莉の家に行く前に一度着替えに帰った方が良さそうだ。


「問題児から呼び出しか?」

「いや、問題児の母親からだ」

既に写し終わったらしいノートを返して寄越しながらからかうように聞いてくる裕也に向かって、ヤツが満足しそうな答えを返してやった。

「ふぅん。さすがにまだ保護者と一線を越える気は起きねぇな」

どうしようもない感想を吐くコイツは、完全に反面教師だ。

まだとはどう言う意味だ、今でも生徒となら本気でアリと思ってるのかという数々のツッコみも無駄な努力かと思うと自然と引っ込む。


しかして、ふと自分を振り返る。

教師は聖職――なれば、プライベートをこういう風に浸食されることもまた、当然として受け入れなければならないのだろうか。
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