【完結】セ・ン・セ・イ
降って湧いたその小さな疑問に答えを出す間もなく、家庭教師に向かう時間が訪れた。

瀬戸家に着けばいつものように朱莉の部屋へ直行ではなく、一旦リビングに通される。

先ほどの電話の件を先に話し合おうというわけだ。


「え――授業の回数を?」

「ええ、夏休み中、もう少し増やしていただきたいんです」

これ以上増やしたところで、実質俺が教えていることはほとんどない。

問題を与えて解答をチェックすればほとんど正解していて、自分の存在意義を疑うほどだ。

まだ学校の授業で習っていない範囲についても、軽く説明しただけで彼女は簡単に理解してしまう。


「あの……現状で十分に足りているように思いますが」

俺自身が休み中の都合が付かないという訳でもないが、この要求はどうにも解せない。

だが、例のごとく足音を立てずにいつの間にか2階から降りてきた朱莉が母親の隣に腰を下ろすと、すぐに説明が追加された。

「私がお願いしたんです。先生の教え方が、とっても分かりやすいものだから」

久しぶりに見る猫被りの彼女だ。

母親は困ったような苦笑を浮かべると、申し訳なさそうに補足する。

「期末試験を見るとかなり良い成果が出ているようなんです。だけど1学期の成績はまだ……」

そうか、もう通知表が出たのかと、その言葉で少しだが合点がいった。
< 16 / 147 >

この作品をシェア

pagetop