【完結】セ・ン・セ・イ
彼女にこれ以上勉強の指導が必要とは思えない。

俺は彼女が本当は【出来る】ことを知っているし、彼女は俺がそれを【知っている】ことを分かっている。


それなのに、毎日来て欲しいと言う。

何故だ?


切羽詰まった受験生ならともかく、普通高2の夏休みに毎日勉強したいなんて自ら望まない。

普段の授業の様子を見ていれば勉強が趣味というわけじゃないのは分かるし、実力的にも必要がないなら尚更だ。


遊びたい盛りじゃないのか、俺は2年前どうだった?

……毎日勉強なんて、絶対にしていない。


「――何にも予定ないの? 夏休み」

「1学期の成績が悪かったから、お勉強しなきゃと思って」

尚も彼女の顔には、仮面のような笑みが貼りついたまま。

本心ではない、もちろん。

だがその下に隠された真実が、読み取れない。

「家族で旅行とか」

「ないない、父はずっと仕事だし」

金持ちには季節ごとにそういうイベントがあるものかと思っていたが、そうでもないらしい。

「外には」

「この暑いのに? やめてよ」

――その物言いに、次に用意していた「友達と」という質問の答えも予想がついてしまう。


本気で、ずっと、ひとりで家にこもっているつもりなのか。

俺を呼ぶのはじゃあ、……暇つぶし?
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