【完結】セ・ン・セ・イ
それはなんとも理解しがたい考えだった。

彼女が俺に心を開いているようには、とても見えない。

それなのに暇つぶしに俺を呼ぶのは――、

俺以外に呼べる相手がいないからか。

それとも、さっきは否定されたが、やっぱり素を見せられるのは俺だけなのか。


俺に対する単なる嫌がらせというのもまあ、これまでの言動を考えるとなきにしもだ。

だが、先に浮かんでしまった2つの可能性が頭から離れない。

こんなことを言ったら彼女は嫌がるだろうが、どちらにしても不憫この上ない。


「そうだ、センセ」

思考中の突然の呼びかけに「はっ?」と抜けた声を漏らして顔を上げると、朱莉は珍しく真剣な顔をしていた。


「昼間……母が電話したでしょ。ごめんね、学校にいる時間なのに」

「――、いや、別に……。それに、キミが謝ることじゃないでしょ」


正直、意外だった。

この親子の間でどんなやり取りがなされているのかは想像もつかないが、少なくとも瀬戸朱莉は、彼女の母よりもずっと――俺と感覚の近いところにいる。


不思議と――、毎日、来てやってもいいかという気になった。

いやむしろ、それで彼女が理解出来るなら、来たい。


だけど俺は

「……条件が、ある」

ちゃんとした教師のフリをしたくて、また少しだけ、虚勢を張った。
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