【完結】セ・ン・セ・イ
交換条件 ご褒美は課外授業
「こことここ、あとここ。やり直し」

俺がシャーペンで薄くチェックを入れながら指示を出すと、瀬戸朱莉は表情を変えないまま小さく舌打ちした。

「キミ、俺を試してるの? いい加減本気出してよね」

「ひどーい。ちゃんと真面目にやってますぅ」

出た、ぶりっ子。

正直この拗ねた様な顔は演技と分かっていても可愛いと思うのだけど、そう簡単には騙されてやらない。

……裕也あたりなら、コロッとて手懐けられてしまうんだろうが。

「はいはい分かってますよー。じゃ、正解出せるまでやり直そうか」

こっちもわざとらしく作った笑いで軽くそう言ってやれば、彼女は大人しく引き下がる。

こう毎日顔を合わせていれば、さすがに扱い方も上手くなってきたと我ながら思う。


8月も2週目に突入、俺は約束通り毎朝瀬戸家へ通っている。

ただし土日は休みという取り決めを交わしたのは、曜日感覚を失わないため――いわばお互いのためだ。


朝10時からの2時間授業というスケジュールは、不規則になりがちな連休を健康的かつ有意義に過ごせるのが俺としてもありがたかった。


瀬戸朱莉は今、俺が出した『第一の条件』に取り組んでいる。

教える側の俺としてはこの『第一』が一番の難所なのだが、それも山を越えてゴールが見え始めたところだ。

予想より、大分早く。
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