【完結】セ・ン・セ・イ
「授業は私の部屋で。ね、先生?」

対面のソファに親子が並んで座し、今後の取り決めについて話し合うのを半ば上の空で聞き流しているところに突然話を振られた。

「お母様がそばにいては、お勉強に集中できないわ」

恐らくは母親が授業をここでやるようにと提案したのだろう、それを咎めるように肩を竦めてそう言った瀬戸朱莉の口調もまた、上流階級のそれだった。

「ああ――、そうですね。自分の部屋の方が、勉強環境も整っているでしょうし」

適当に話を合わせて相槌を打つ。

俺としても母親に見られながらの授業は落ち着かない。

相手が年下の生徒なら多少の失敗は誤魔化せるだろうという情けない本音もある。

「それもそうね」と渋々ながら母親が折れてくれたので助かった。


授業は週3回、月・水・金の18時からの90分間で、見る教科は基本英語と数学。

互いの学校行事や彼女の試験前など必要に応じて加減・調整するということで、話はまとまった。

授業料については決まった時間給があり事務所を通しての振込なので、特に話し合いの必要はない。


「じゃあ、早速今日から教えていただけます?」

また『先生』と俺を呼んで、瀬戸朱莉は微笑みながら小首を傾げる。

赤いフレームの眼鏡の端が、リビングのLEDを反射してキラリと光った。
< 4 / 147 >

この作品をシェア

pagetop