【完結】セ・ン・セ・イ
母親に会釈をしてリビングを出たところで、少しだけ緊張から解き放たれた気がして気付かれぬようにふっと息を吐き出す。

哀しきかな、一般家庭で生まれ育った俺にはどうにも上流階級の家というのは気詰まりだ。


「部屋は2階です」と言って階段を先に上っていく瀬戸朱莉の後に続きながら、俺は彼女の無音のスリッパを見ていた。

ああ、足音立てないように気を付けなくては。

移動の度にのしのしと家が揺れるような豪快な足音を立てる野蛮な人間は、この家にはいないのだろう。


案内された彼女の部屋は、子供部屋と呼ぶには広い気がした。

少なくともベッドと机と小さなTVでほぼいっぱいになっている俺の6畳の部屋よりは広い。


寝室兼の勉強部屋だが、余裕のある間取りのおかげでそれほど気を遣わなくて済むのには救われた。

来客を通してもベッドしか座るところのない俺の部屋のような狭さだったら、さすがに2つしか年の違わない年頃の女子と2人きりというのは互いに気まずいものがあるだろう。


部屋のドアを閉めた瞬間に――、

「ああっ! 疲れたッ!」

瀬戸朱莉は、スリッパを脱ぎ捨てるように放って尻からベッドへダイブした。

スプリングが細身の彼女を跳ね返し、ぼよんとその身体が勢いよくバウンドするのを俺は呆気にとられて見つめた。

「ちょ――、朱莉、……さん?」
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