【完結】セ・ン・セ・イ
「いらんフォローするなって。気ぃ遣うなよ気持ち悪い」

とても楽しんでいるようには見えない朱莉から『面白い』と言われても、面目ない気持ちは変わらな――

「本当だってば!」

「ッ!?」


――驚いた。

今、少し感情的にならなかったかコイツ?

大きな声を出したことに気付いたのか、朱莉は口に手を当て視線を彷徨わせている。


「……楽しんでんの?」

窺うと、こくり、遠慮がちな上目遣いが、眼鏡のフレームの上から覗いてくる。

ヤバい、かわい――じゃなくて。

本気で言ってるのか。


「分かりづら」

ぼそっと漏れた本音に、瀬戸朱莉はぷうっと頬を膨らませた。

何それ子供か。

あ、いや子供か……うん? 生徒=子供?
いやいやいや。

大人すぎても困るが、少なくとも朱莉は子供じゃない。


「どーせ」

分かりづらいですよ、と、至近距離にいてもギリギリ周りの喧騒に掻き消されてしまうかどうかという小さな声が、辛うじて耳に届いた。

『どうせ』という言葉が出るのは、自覚があるからなのか。

でもそうか、楽しんでるんなら

「良かった」

前半を声に出さないままにそれだけを口にすると、眉をしかめ「はぁ?」と聞き返される。

解説してやる気はない、分かりづらくても楽しんでくれてるんなら、それでいい。
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