【完結】セ・ン・セ・イ
「センセーは、やらないの?」

コートを指差して聞いてくる。

ここまで来てわざわざ着替えまでして、やりたくないってこともないんだが。

「お前1人ここに置いてって、熱射病とかで倒れられても誰も気付かないぞ」

「うわ、私のせいにする?」

と、人の厚意を邪険にするわけだこの娘は。

「私は別に平気だから――」

放っておいて、とか、やってきなよ、とか、何かしら後に続く言葉があったのだと思うけど、朱莉の声はここで不自然に途切れ、視線が俺の肩越しに定まった。

不穏な気配を感じて振り返れば、

「はーやーとっ! 何女子高生独り占めしてんだよッ!」

低俗な発想丸出しのセリフが耳に飛び込み、「やろうぜ」と言わんばかりコートを親指で差して近付いて来る裕也を視界に捉えた。

直後、

「うっわ馬鹿お前、汗ッ! 触るなっ!」

汗に濡れて光る右腕が首に絡まり、絞れそうなくらいの水分を含んで冷たくなったTシャツが肌に触れて思わず叫ぶ。

「ツレないな隼人、女子高生の前だからって気取るなよ」

この程度のじゃれ合いは良くあることで確かに普段なら気にしないが、それはお互い運動前か後かだからだ。

プラスアルファの水分を垂れ流している裕也と日陰で涼んでいた俺、では有り得ない!

「まだ乾いてんだよこっちのTシャツは! 朱莉は関係ないし、そもそも気安く女子高生とか呼ぶな!」
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