【完結】セ・ン・セ・イ
「大学生の遊びと仰いましたが、行先も目的もいつもお伝えしている通り、不健全なことなど一切していません。彼女がいる時には他のメンバーも飲酒・喫煙すら配慮してくれています。メンバーには必ず他にも女性が混じるようにしているし、危険なこともやましいことも何もない。ずっと家に引きこもっているより、ずっと健全だ」


早口に捲し立てるように言葉を叩きつける。

さすがに金の話を持ち出すのはやらしいが、家庭教師としての給料は課外授業の日には発生させていないからそこを責められることもないのだ。


朱莉の母親は相変わらず下を向いたまま、無言でそれを聞き続けた。

無反応――聞いているのかどうかすら、確認のしようがない。


それでも、俺は続ける。

朱莉が騒ぎに気付く前に。

彼女にこの話を聞かれる前に。


「毎週夏休みの思い出を英作文で提出する。俺が授業の増加承諾と引き換えに出した、最後の条件です。翻訳するから、読まれますか? 彼女の思い出は俺が連れ出した先のことばかりだ」

その3つ目の条件には、英語の勉強を隠れ蓑にして別の意図があった。

作文に出来る程度の、夏らしい思い出を彼女に。

そして彼女の作文には、バーベキューや夏祭りやサークルメンバーと交わしたディベートなどの思い出が生き生きと綴られている。


「失礼ですが」

敢えて聞く。

本当は朱莉自身が触れられたくないだろう、恐らく俺が踏み込んではいけない領域に。


「彼女はいつから成績が落ちましたか。元々彼女は優秀だったはずだ、違いますか」

一歩、足を踏み入れた。
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