【完結】セ・ン・セ・イ
言い終えた途端、それまでずっと黙っていた瀬戸朱莉の母親が――、裕福な家庭の主婦らしくしとやかでおっとりしていて生真面目で、少しばかり自己中なところはあるが、これまで決して言葉を荒げたことなどなかったその人が。
――痙攣を起こしたように激しく震えながら、人語とは思えないような甲高い奇声を、発した。
取り乱す彼女を前に、俺だってこのあまりの事態に狼狽するしかなかった。
保護者としての彼女のあり方・考え方を非難する気持ちは確かにあったが、それでも攻撃する意図は決してなかったというのに。
俺が吐いた言葉のどこに、彼女をこんな風にしてしまう要素があったのか。
始めは甲高かった奇声は段々唸るような低い咆哮に変わっていく。
獣のように吠え続ける瀬戸朱莉の母親に、声をかけることも触れることも出来ずに俺は数歩後ずさった。
バタバタと足音が響いた。
この家で誰かの足音を聞くのは、それが初めてだった。
奇声は家中に、いや恐らくは外にまで漏れ聞こえているに違いない。
リビングの扉を壊さんばかりの勢いで最悪の場面に駆け込んで来たのは、当然、2階にいたはずの朱莉だった。
「お母様……!」
朱莉は母親に駆け寄って肩に手をかける。
そのまま抱き寄せるようにして、背に片手を回し宥めるように擦りだした。
「大丈夫よ、お母様」
大丈夫、もう大丈夫――、そう、静かな優しい声で繰り返しながら。
その手を止めないまま、彼女は俺を見上げた。
ゆらり、視線が、絡む。
追及されたり、一方的になじられてもおかしくない状況だった。
彼女は、
「……ッ!?」
――今にも泣き出しそうな顔をしていた。
――痙攣を起こしたように激しく震えながら、人語とは思えないような甲高い奇声を、発した。
取り乱す彼女を前に、俺だってこのあまりの事態に狼狽するしかなかった。
保護者としての彼女のあり方・考え方を非難する気持ちは確かにあったが、それでも攻撃する意図は決してなかったというのに。
俺が吐いた言葉のどこに、彼女をこんな風にしてしまう要素があったのか。
始めは甲高かった奇声は段々唸るような低い咆哮に変わっていく。
獣のように吠え続ける瀬戸朱莉の母親に、声をかけることも触れることも出来ずに俺は数歩後ずさった。
バタバタと足音が響いた。
この家で誰かの足音を聞くのは、それが初めてだった。
奇声は家中に、いや恐らくは外にまで漏れ聞こえているに違いない。
リビングの扉を壊さんばかりの勢いで最悪の場面に駆け込んで来たのは、当然、2階にいたはずの朱莉だった。
「お母様……!」
朱莉は母親に駆け寄って肩に手をかける。
そのまま抱き寄せるようにして、背に片手を回し宥めるように擦りだした。
「大丈夫よ、お母様」
大丈夫、もう大丈夫――、そう、静かな優しい声で繰り返しながら。
その手を止めないまま、彼女は俺を見上げた。
ゆらり、視線が、絡む。
追及されたり、一方的になじられてもおかしくない状況だった。
彼女は、
「……ッ!?」
――今にも泣き出しそうな顔をしていた。