【完結】セ・ン・セ・イ
「そんな大したことじゃあなかったと思うのよ」

と前置きして木嶋が話してくれた内容に、俺はただ絶句した。


彼女が携帯を弄りながら説明してくれたメールのやり取りに、朱莉の機嫌を損ねるようなものは何ひとつない。

『夏祭り楽しかったね!』から始まっているそれは、仲の良い友達同士の何気ない会話のやり取りだった。


夜メールする時の向こうの反応はいつも早かったという木嶋は、それなのにこの最後のメールに限っていつまで待っても返事が来ないことを、ずっと不審に思っていたらしい。

だがそのメールこそが、俺には、彼女の家に隠された何かの正体に見えた。


――『次は朱莉ちゃんの妹も連れておいでよ!』――


兄弟の話、とか。

確かに木嶋はそう答えた気がする。

朱莉とどんな話をしてそんなに仲良くなったのかと聞いた時、それ以上は教えてあげないよと勿体ぶった言い方で、でもそれくらいなら明かしてやってもいいかとでもいう感じに。

会話のテーマの1つとして最初からそれくらいは俺が想像出来ていること前提のように、さもそれについて話が盛り上がるのが当たり前かのように。


「どういうことだ」

漏れた言葉に、木嶋も裕也もぽかんと口を開けて無言の反応を示した。

このメールのどこにおかしな点があるのか、2人とも分かっていないのだ。


「……進藤くん?」

不安げな顔で、木嶋が呼びかけてくる。

一体これは、どういうことだ。


「木嶋。――瀬戸朱莉に、妹はいない」
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