【完結】セ・ン・セ・イ
「うそ」、と、木嶋は小さな声を短く発した。

視線を忙しなく彷徨わせながら続けた「だって」の後、電池が切れたオーディオプレーヤーみたいにぷつりと音が途切れた。


「え? 何? どーいうコト? 朱莉ちゃん、嘘吐いてたの?」

代わりに俺たちよりも状況が掴めていない裕也が、あたふたとストレートな疑問を吐き出した。

事実だけをかき集めれば、当然それは導き出されるべくして出てきた答えだ。

だが、

「あれは嘘なんかじゃないよ!」

――当の本人から直接『妹』の話を聞いている木嶋が少々声を荒げた通り、俺にも、瀬戸朱莉がそんな無意味な嘘を吐くとは思えなかった。


だが、いない。

朱莉の家にも、彼女や家族と交わした会話にも、そんな気配は微塵もなかった。

夏休みに入って毎日通っても、朱莉とその母親以外の人物は一度も現れなかった。

妹など――


「いない……って、はっきり言われたことはない」


記憶をいくら手繰っても、確かに明言されたことはない。

「でも、いたら気付く。毎日通ったんだ、さすがに1回くらい会うだろ」


少なくとも、今現在あの家には、瀬戸朱莉の『妹』という人物は存在していない。

それだけは断言できる。


でも――そうか、例えば留学中とか入院中とか寮暮らしとか、一緒に住んでないだけだとしたら俺が気付かなかっただけで――。


「もしかして、なんか理由があって別居でもしてるのか?」

だとしたら俺の勝手な勘違いだ。

無駄に不安を煽ってしまったことに申し訳ない思いをもって、事情を確認しようと木嶋に問いかけ、

「――おい、大丈夫か」

その顔色の悪さに、驚いた。
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