【完結】セ・ン・セ・イ
「お前にしてはファインプレーだったな、裕也」

空になったガラスの器の縁を、役目を終えたスプーンが滑ってシャランと涼しげな音を立てた。


「はあ? なんのことだよ」

「これ」

短くそう言って、器を指ではじく。

「お前が勝手に3人分頼んだんだから、お前の奢りな」


おかげで頭は冷えた。

俺は冷静だ。

そして、思い出した。


「すっかり忘れてたけど、黙々とコレを食ってる内に思い出した。初めて会った時に、アイツ言ったんだ」

何て? と、2人は見事にハモった。

「――……一人娘だ、って」

そう、あの時、初めて朱莉の部屋に入って2人きりになった途端の変わり様に驚いて。


『もしかして、猫被ってる?』

尋ねた俺に、彼女は確かにこう言った。

『お金持ちの一人娘らしくね』


勘違いなどではない。

ただ見たことがないだけでいないと決めつけていたわけではなかった。

あの言葉があったから、俺は思っていたのだ。

瀬戸朱莉に、兄弟はいない、と――。


「じゃあ……、でも、なんで……」

木嶋も頭は冷えたのかさっきのような狼狽え方はしないが、それでも納得はいかない様子だ。

「とても作り話には聞こえなかった。あれが嘘だったなんて思えないよ」


そりゃあ、木嶋にしてみたらそうだろう。

女同士の付き合いは良く分からないが、それでもこの2人は学年を通り越して仲が良いように見えた。

せっかく出来た友達に対して、そんなつまらない嘘を吐く理由などない。
< 63 / 147 >

この作品をシェア

pagetop