【完結】セ・ン・セ・イ
「それにしたってよ、結局どっちかは嘘なわけじゃん? じゃないと辻褄合わねぇだろ」


確かに、辻褄が合わない。

一人娘なら、妹がいるはずがない――そんなことは、考えるまでもない。

だが。

「本当にそうか?」


本当に、それしか可能性はないのだろうか。

俺も多分木嶋も、朱莉に嘘を吐かれたとは思いたくない。

「言ってる意味が分からない」と不服げな顔でぶつぶつ呟いている裕也に反して、俺の独り言みたいな問いかけに、木嶋の表情は少しだけ希望を取り戻した。


「両方とも本当……なんてこと、ある?」

「考えよう。百歩譲って嘘吐くにしても、アイツならもっとマシな嘘思い付くよ」

「って、ちょいちょいちょい! マジで言ってんの2人とも?」

呆れ顔の裕也が言いたいことも、分からなくはない。

だけど、俺は、自分の目で見てきた自分の生徒のことを信じたい――、信じるべきなのだ。


「2人じゃないでしょ、何言ってんのよ。白石くんも、一緒に考えてよね」

ええーっと明らかな不満を漏らす裕也に向かい、木嶋は「アイス代自分で払うからっ!」と満面の笑みで言い放った。

なかなかどうして、女ってのは沈んだり浮いたり……、良く分からん。


分かったよ、と渋々ながら承諾した裕也もしかし負けておらず、場所を変えるんなら、という条件を付けてきた。

つまるところ、この男は酒が飲みたかったらしい。

なんとなく二十歳まではと自制してきた俺も家庭教師が休職状態で箍(タガ)が外れたのか、1ヶ月後に控えた誕生日を待たずして、この日、久しぶりに酒を飲んだ。
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